今年は戦後70年。歴史を学ぶこと、語り継ぐことの大切さを知る。『「昭和史」を歩きながら考える』/半藤一利著

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私は戦後生まれのため、戦争体験はありませんが、生まれ育った街・埼玉県東松山市は、平和教育が盛んな土地でしたので、戦争について学ぶ機会は多かったように思います。「原爆の図」で高名な画家・丸木位里・俊夫妻の美術館が近隣にあるというのも無関係ではないでしょう。

年に一度は、遠足で丸木美術館に訪れました。私は、みんなで遠足に行けて楽しいなあ、と思う半面、「あの絵」を見るのはこわいなあ、と思っていました。でも、あの絵を、「怖い」といってはいけない気がしていました。あの絵はこわいけど、怖がって眼をそらすのは失礼だ、そんな気持ちがあったように思うのです。

子どもながら、それがあの悲惨な現実があったことへの誠意であり、せめてものことだと思っていました。だから、丸木夫妻が描き出す、阿鼻叫喚の地獄世界としか思えない「あの絵」をただじっと見つめる……。
思い返しますと、年に一度、そんなことをするのは、実はとても意味のあることだったように思います。この日と、その後の何日かは太平洋戦争について考えます。そして、戦争がどんなに悲惨なのかに思いを巡らし、理屈でなく、人を殺し殺される「戦争」なんて絶対したくない、子ども心に実感を持ってそう思うことができました。

そして、それからさらに20数年が経ちました。
今年は何と戦後70年を数える年……。

戦争をしないで太平の世を70年も築けてきた、とも言えます。しかし、それはあまりにもきれいな言い方で、日本は間接的に戦争に参加してきた、といえると思います。それぐらい、世界に戦争が絶えることはありません。

さて、毎度ながら前置きが長すぎました。
ここ数カ月、一生懸命取りくんでまいりました一冊、半藤一利先生のエッセイ集、『「昭和史」を歩きながら考える』が、明日発売となりますので、ご紹介させてください。

20150303半藤先生のご本は、昨年も『若い読者のための日本近代史』(PHP文庫)というご本をお手伝いさせていただきました

先生の文章を拝読するのは、まさに勉強の連続ですが、今回もほんとうに勉強させていただきました。

昭和史の生き証人であり、第一級の研究者であり、歌人であり、また文藝春秋社の名編集者として数多くの高名な作家との交流を重ねてこられた先生の文章には、知識からも、風格からもただごとでない気配がにおい立ちます。前回は、書評集といった感じでしたが、今回のご本は、「エッセイ」集ですので、だいぶ軽いタッチのものも多く収録されていますが、それでもそこここに漂う「文人」らしい空気はどこまでも健在です。

あの時、あの前後にどのようなことが起こっていたのか、また経済発展していくときの日本とはどんな風だったのか、というのは、戦後生まれの我々は、よくわかっていないかもしれません。しかし、本書で語られる半藤少年・半藤青年の目を通じて、または多くの歌人が詠んだ歌や俳句によってうかがい知ることができます。また、編集者としての心がけ、日本語とはいったい?といった、その後の昭和日本で、といった趣きの軽妙なエッセイもあり、気楽に読んでいただけると思います。

私が子供のころ、「原爆の図」を観ることによってある意味「体感」 したように、様々な形で、戦争や歴史を語り継いでいくことはできるんじゃないか、と思うのです。本書は、そんな体験を、読むことでさせていただける一冊、と思います。

そしてまた、直感的に戦争は嫌だ、戦争なんてしたくない、そう思うことは大事なことですが、では「どうしたら回避できるのか」、それは「歴史を学ぶ」ことによって、少し見えてくるのではないか、と思うのです。そういった意味でも、本書における先生の歴史を見つめる視線、読み解き方は、とても参考になるのではないかと思います。

ぜひ、お気軽にお手に取ってみてくださいね!

(むとう)

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