「鳳凰の声を聴け」


仕事柄、ただひとり、ひたすらに机に向かうことが多いのですが、
何日間も閉じこもって仕事をしていると、世界がどんどん狭まってくるように思い、だんだん悲しい気持ちになってきます。

今日みたいないいお天気の休日にこもっていると特に…^^;

そんな時には、A老師の揮毫を拝見すると、気持ちが落ち着いてきます。
ちょっとカジュアルで恐縮ですが、一番目に入る机の正面にぺたりと貼らせていただいてるんですね。

以前大変お世話になっている先生にお供して、A老師をおたずねした際に、ご案内くださったNさんが、師の揮毫を印刷されたとのことで、わけてくださったものなんです。

A老師の柔らかで優しい物腰は、私のような門外漢でも一瞬にしてその大きさを感じ取れてしまうような方でした。全く詳しくないですが、禅僧の理想のお姿を見たような気がしたものです。

「聴鳳」

恥ずかしながら、正しい意味を分かっているわけではありません。
でも、この何とも言えない美しい文字を見ていると、世界が広がっていくような心地がするのです。

「鳳」とは、鳳凰の「鳳」ですが、「聴」とあるからには、「聴く」ということでしょう。「聴く」としたら〈鳳凰の声〉か、あるいは鳳凰の鳴き声から律を定めて造られたという竹の笛《鳳笛》のことでしょうか。

姿が見えなくても、声〔音〕は聴こえます。
たとえ、孤独でもその声は聴こえてくるはず。聴こえないのは、自分が聞きたくないからなのではないか、と。

「鳳凰の声を聴きなさい」
――見えているもの、自分でわかることだけがすべてではない。
もっともっと大きなものが世界にはある。
その豊かさを、大きさを感じなさい。

……と。

私にとっては、そんな意味に思えてくるんですね。

そうすると、なんだかちょっと安心するんです。

そんなわけでして、本日ももう少し仕事がんばります。
そして夕方は剣道のお稽古に行くぞ~!おーー!!!

 

”深海生物”。その奇妙で、あまりに魅力的な世界!/特別展『深海2017』@国立科学博物館(7/11-10/1開催)


これまでの編集者人生を振り返ってみて、後悔することは数限りなくありますが、その中でももっともヌヌヌヌ…という気持ちになるのは、ある本の出版権を一歩の差でとることができなかったことなんです。

その本は…

『The Deep』クレール・ヌヴィアン著

この本です!!

く~っ。今思い返しても悔しい。

実は、この本の存在を教えてくださったのは、カイメン学者のIさん。
たまたまこんな本が出たんですよ、と見せてくださって、私は一瞬にして釘づけになりました。
英語はよくわからないので、Iさんに、「わわ!?なにこれ、めちゃくちゃきれい!これはなんていう生物?」と一つ一つ教えていただきながら(贅沢!)、拝見したんです。

いやあ、ほんと。興奮したなあ。
だって、本当にきれいで面白いんですもの。

すっかり興奮した私は、翌日出社して上司にこの本のことを話しました。
まだ出版されて数カ月、版権をとってこの本を出版できないでしょうか?とモジモジ言う私。上司は、私の何倍も海洋生物を愛している人なので、「すぐ電話しろ、すぐすぐ!」と背中を押してくれました。

しかし。

タッチの差で、ほかの版元さんと契約交渉が始まってしまったことが分かりました。そして、その後契約もされたとうかがい、本当に、本当にがっかりしてしまいました。

はあああ。

今もこの写真集を眺めては、そのことを思い出し、ちょっと悲しい気持ちになるのです。

それから、早いもので10年が経ちました。
その後、日本中に深海生物ブームがやってきました。沼津に深海生物専門の水族館ができたりして、すっかり定着したような気がします。
というわけで、『深海』と思いうかべただけでここまで前置きが長くなってしまう私なのですが、ここからが本題です。

いよいよ来月11日から『深海2017』展が開催されます~!いえ~!

前回の『深海』展ではとにかくダイオウイカ推しだったような気がしますが、今回は「生物発光」「巨大生物」「超深海」にフォーカスして構成してるんだそうですよ。

ぜひとも観に行かねば!ですね!!

私は、夏休みはちょっとはずしたいので、9月になってからみに行こうと思っています。

特別展『深海2017』@国立科学博物館
会期:2017年7月11日~10月1日

3日間限定「ホタルナイト」開催。ヘイケボタルが見られます!@埼玉県立こども動物自然公園(7/18-/20)


最近、蛍がみられるという場所が増えましたよね。

高度成長期に幼少時代を送った身としましては、子ども時代、蛍なんて超清流にいるもので、埼玉の住宅地なんかじゃ到底拝めない貴重な虫だと思っておりましたら、なんと!

埼玉県立こども動物自然公園で、ヘイケボタルがみられる、と言うではないですか~!

知らなかった~!!!

hotarunight2015

こちらの動物園は、猛獣などはいないし、どちらかと言うとじみ目な動物園かもしれませんが、私は大好きです!

子どものころから行き馴れてるということもありますが、丁寧に運営してるなあ、といつも感心するんですよね。園内も清潔で広々としてますし、動物たちものびのびしているように感じます。コアラやカンガルーなど、有袋類を身近に観られるというのも魅力ですし。

それにしても、蛍がみられるなんて知らなかった。

確かに広い園内に、沢がありましてそこにいると言われればなるほど、という感じなんですが、それにしても私が子供の頃には考えられないくらい、環境が良くなったってことなのかなあと。

そんなわけで、蛍を見たことがないという皆様!

池袋から電車で52分!
けっこうあっという間ですよ♪

ぜひ、足をのばしてみてくださいね~!

埼玉県立こども動物自然公園「ホタルナイト」
PM5:00-9:00開園
7/18-7/20

 

世界に二つしかない「双羊尊」が揃い踏み!!~『動物礼讃』展@根津美術館


IMG_0104

今年の根津美術館のスタートは「動物礼讃」展。でした。なぜ過去形かと申しますと、先週で会期が終了してしまったからなのですね~^^;。

え~!行ってみたかったのに!という方はすみません。

お知らせするのがだいぶ遅くなってしまいまして…。

実は私事ですが、2月はものすごくドタバタなスケジュールだったのですが、どうしてもこの展覧会は行きたくて、かなり強引にスケジュールに入れこみました。

と申しますのもですね。

根津美術館のシンボルともいうべき「双羊尊」の、世界で唯一同じような「尊」である大英博物館所蔵の尊が、並べて展示される、と言う奇跡のような展覧会だったからなのです!!

実は、私、古代中国の青銅器大好きでして。

幸いなことに、日本は世界でも有数の中国古代青銅器コレクションがあります。奈良博の坂本コレクション、泉屋博古館の住友コレクションなど、数・質ともにものすごいクオリティだと思うのですけど、も。

私も、たいがいマニアックな趣味と言われるのですが、石造物にしても、仏像にしても、けっこう同好の士は多くいるもので、一緒に観に行ったり、語り合ったりできるのですけど、なぜかこの青銅器だけは、語り合える友に未だ出会えておりません。

なぜなんだ…

でも、いいんです。一人でも好きなものは好きなんです!

さて、そんな愚痴はさておきまして、中国古代の青銅器についてものすごくざっくりご説明しますと、殷の時代(紀元前17世紀ぐらい)から、祭祀や儀礼専用の器材として多く作られました。ちなみにこの「尊」というのは、今風に言えば、お酒を入れる壺のことです。

中国古代の青銅器の魅力は、(細かい理由は大きく省きましてざっくり申し上げますが)なんといってものそデザインだと思います。

蝙蝠、羊、フクロウ、といった実在の動物をデフォルメし神の如くになったものや、想像上の神獣である「饕餮(トウテツ)」を文様化したものなど、動物たちが色濃く登場します。

私個人としまして、青銅器づくりの神業的な技術力にも瞠目しますが、やはり何と言ってもこのおそろしくもかわいらしいデザインに魅了されてしまった、と思います。動物好きにはたまらん!と思うのですけども。

20150301-2

上の写真は、図録からの転載になりますが、ちょっとご覧ください。左側が、大英博物館所蔵で、右側が根津美術館所蔵のものです。

驚くほど、構成要素は似ています。しかし、何かが決定的に違うように思います。

20150301-1

文様の違い、足の間の飾りのあるなしなども違いますが、すごくわかりやすいのはこの顔の表情かもしれません。

大英博物館のほうがよりリアルな感じで、生きものに近い、根津美術館のほうはより洗練されて柔らかで、デフォルメが進んでいます。

いうなれば。

万葉集と古今和歌集、ほどの違いがある……。

いや、もっとわかりやすく言うと、土門拳さんと入江泰吉さんの写真程に違いがある……。

そんな感じ?がしますね(あれ、なんか遠ざかってる??。

どちらも好み次第とは思いますが、根津美術館の所蔵の右側のほうは、なんとなくなるほどな、と思います。お茶人は間違いなく右と左がありましたら、右を選ぶんじゃないかな。お茶人、というよりも日本人、といったほうがこの場合は正しいかもしれませんが。

さて、この二つ、ではどういう関係性にあったかというと、よくわからない、というのが研究者の答えのようです。

ただ、作られた場所はおおよそ同じ地域(おそらく湖南省)で、作られた時期もだいたい紀元前13世紀から11世紀ぐらい、ただし大英博物館所蔵のもののほうが、すこしだけ古いだろう、と考えられているとのことでした。

なんと言っても、今から3000年ほど昔の話ですから。そりゃ、よくわからないですよね。しょうがないしょうがない。

でも、本当にこれぞ、ロマンですね!まさに眼福でした。

根津美術館
http://www.nezu-muse.or.jp/

カエル好きの皆さん!世界で最も美しいカエルカレンダー『FROGS』by松橋利光さんが今年も登場しましたよ~!!


そろそろ今年もあと三ヶ月。
書店さんも年末に向けてどんどん模様替えしてますよね。

この時期最も大きく変わるのは、カレンダー・手帳の特設コーナーができることではないでしょうか。

さて、私は以前山と溪谷社という出版社におりまして、その時にはこのカレンダーも担当しておりました。哺乳類(犬・猫)をメインに担当しましたが、カエルカレンダーも担当しておりまして……

カエルカレンダー『FROGS』がまた素晴らしいんですよ~~!!

この、美しい写真は、カエル好きなら誰もが知っていると思いますが、松橋利光さんのお写真でございますっ!

いいですよねえ。松橋さんのカエル。

もともとカエルは好きでしたが、このお仕事を通じ、松橋さんのお写真でさらに好きになってしまい、会社を辞めてからもこのカレンダーは買い続けています。

松橋さんは、ありがたいことに辞めた後もお付き合いくださってまして、そろそろ本格的に何か一緒にやろう!といろいろ画策中。めちゃくちゃ楽しみです。

さてさて。そんなこんなで。最近はちょくちょくお目にかかれる機会があるのですが。
先日お目にかかった際、「はい来年のあげる~」とこちらいただいちゃいました!!

20140912-1

おお!
可愛いです~!

今年の表紙はトウキョウダルマガエル。目が金色。顔から胴体に、葉っぱのミドリの色が反射して青みがかってますね。

 

今回は、日本のカエルの登場がいつもより多めかな?

どのカエルもきれいでかわいいけど、3月のアズマヒキガエル、いいなあ。ヒキガエルって身近すぎて気づきにくいのかもしれませんが、いいかんじの質感と佇まいしてますよね。
松橋さんの写真は、必ずそういう「あ!!」という気付きを与えてくださいます。いいなあ。

今年は、編集のほうを大好きな編集の大先輩・Yさんが担当されたとのことなので、なんとなくYさんらしいレイアウトになっている気がするな~。

中のレイアウトもお見せしたいところですが、それはちょっとあれですのでw、ぜひ書店さんで見てみてくださいね!今年もすっごくかわいいですよ!!

あ、それから、このカレンダー、カエルの写真のシールも付録でついてるんです。これで860円(税別)は本当にお買い得ですよ~!

(むとう)

文系女子にも大プッシュ!生きもの図鑑の新形態『ときめくカエル図鑑』と『ときめく小鳥図鑑』/山と溪谷社刊


わたしが以前在籍していた山と溪谷社は、山の出版社として有名ですが、イキモノ系の人には、図鑑の会社としても認知されているかと思います。

本格的なものから、ハンディなものまでさまざまな図鑑を出していましたが、最近、読み物書籍サイズの図鑑シリーズを刊行しています。

「ときめく図鑑」シリーズ、というらしいのですが、女性が好きかな?って感じのシリーズですね。

さて、その中でこの

20140806

「小鳥」と「カエル」!

カエルのほうは大好きな写真家・松橋利光さんの、ということで以前自分で購入しましたが、小鳥のほうは先週、編集を担当されたYさんから直々に頂戴しました!ありがとうございます~!

偶然に、というか、やっぱりというか両方ともYさんの編集。Yさんはフリー編集者の大先輩で、在籍中にも本当にお世話になったお方。いつも面白くて、お洒落なしっかりとした本をつくってらっしゃいます。

カエルのほうは、松橋さんならではの綺麗でかわいい写真がこれでもかと登場。この本に掲載されているカエルの名前を覚えれば、かなりカエル通になれるんじゃないかと思います。

ほんと綺麗だな~。

小鳥のほうもまた凝ってますよ!
鳥じゃなくて「小鳥」ってのがそもそも乙女な感じですよね。

吉野俊幸さんの写真がまた美しい。小鳥ってこのまるっとしたフォルムたまらんですよね。

それから小鳥の写真のそばに吹き出しで、その鳥の啼き方が入ってるのもいいなあ。

どちらの本も、ちょっと普通の図鑑と違う「文系アプローチ」なページがあります。両方のご本ともに著者の方が若い女性というの無関係ではありませんね。雑貨なカエル、とかカエルが出てくる物語、小鳥が出てくる文学作品の紹介、などなど。こういう部分が、他の図鑑にはないところですよね。

自分用はもちろんですが、プレゼントにもよさそう。オトナ女子で、カエルグッズ集めてるとか、小鳥デザイン好きな人とかっていますよね。そんな人にドンピシャですよ!

そんなわけで、やっぱし、文系女子にもお勧め、かな!
これまで、あまり生きものに興味がなかったような人も、抵抗なく手に取れる本と思います。

お子さんと一緒にみる、なんてのもいいな。すごくシンプルで見やすいデザインだし。

ぜひお手に取ってみてくださいね~!

(むとう)

動物写真家・福田豊文さんの写真展『Night Zoo―夜の動物園―』@キャノンギャラリー銀座にて開催中!!(7/30まで)


かつて在籍していた出版社で、一緒にお仕事させていただき、以来大変お世話になっている動物写真家・福田豊文さんの写真展がキャノンギャラリーにて開催されています!

20140724
今回のテーマは「夜の動物園」。信じられないような解像度で切り取られた夜の動物たちの表情は昼間の動物とはひと味もふた味も違う表情という感じです。

とても自然な表情なんですが、なんとなくかわいいかんじがするのは、福田さんの動物への愛情があふれちゃってるからなんじゃないかなあと。

ぜひ、みなさま。足を運んでみてくださいまし~!

*ちょっと会期が短めなので、気を付けてくださいね。

2014年7月24日(木)~ 7月30日(水) キヤノンギャラリー銀座
2014年8月21日(木)~ 9月2日(火) キヤノンギャラリー福岡
2014年9月11日(木)~ 9月24日(水) キヤノンギャラリー名古屋
2014年10月2日(木)~ 10月14日(火) キヤノンギャラリー札幌

キャノンギャラリー
http://cweb.canon.jp/gallery/archive/fukuda-night-zoo/index.html

目からうろこが落ちすぎる究極の「虫食」レシピ本登場!『人生が変わる!特選昆虫料理50』/木谷美咲・内山昭一著(山と渓谷社刊)


突然ですが、少し懐かしい話です。

高校時代、考古学者になりたかった私は史学部を希望していました。進路指導の時、胸を張って「史学部を受験したいです!」と爽やかに言い切った女子高生の私に、担任の先生が「む。。。」と唸りながらじっと私を見つめると言い放ちました。

「むとう。お前は史学向きじゃない。考古学者はお前には無理だ。やめとけ」

いつもはお調子者で、ふざけたことばかり言っている先生のあまりにシリアスな表情に動揺する私。偏差値がどうだという前に「向いてない」とは何だ。そんな言い方あるかいな…とちょっとむっとして、

「…え?なんで?歴史大好きなの、先生も知ってるでしょ?遺跡掘ったりも…。私はシルクロードの研究者か、中南米の研究者になりたいんです」

「…うん。それは俺もよくわかってる。でもお前はかなり飽きっぽいし、遺跡発掘のような地味で地道なことはむいてないと思う。社会学部とか経済学部がいいと先生は思うんだ」

「いえ、そんなことはありません!好きなことはずっと変わらないし、遺跡を掘るのも大好きです!」

まったく、なんてこと言うんだ!飽きっぽいのは否定しませんが、好き嫌いが激しいだけで、好きなものへの執着度の高さは相当なものがあると自負してました。まあ、先生が何を言おうが、私は考古学をやりたいんだし、遺跡を掘りたいんだから史学部にするけどね…、と心の中でつぶやいていると、

「おれのアドバイスなんて聞く耳持たないって顔だな。わかった。じゃあもうはっきり言おう。お前、肉食べられないよな」

「……!? に、肉はいざとなったら食べられますよ。なんですか急に…」

実は今でこそ好き嫌いはありませんが、20代前半までほぼベジタリアンでした。動物性たんぱく質はほとんど食べられなかったのです。ただ、どうしても食べなくてはならないシーンでは食べられましたし、別にそんなことを急に言われても意味が分かりません。

「まあ、いい。じゃあ肉は食べられるかもしれない。でも、虫はどうだ。食べられるのか?」

えええええええ!???
虫!??なんでえ?!

「お前がいきたいと言っている中南米はジャングルが多い地域だし、お前が好きな地域は未開の地が多い。食料が少なくなったときやその土地の人がご馳走してくれた時、お前はそれをちゃんと食べられるのか?」

??!!!

そ、それは、マストスキルですか?
虫食べられなくても大丈夫じゃないの?!
だめなの??!

……当時も「めちゃくちゃなこと言うなこの先生!」と思いましたが、今思い起こしても無茶苦茶だなと思います。しかし、無茶苦茶だなと思う一方、世間知らずの私は「確かに考古学者になったら野菜ばっかり食べてるわけにもいかないのかな」と、進もうとしていた足をふと止めてしまったのです。

結局、史学部は受けましたが、どちらかというと歴史学に強い学校が受かり、最終的に入学を決めたのは全然関係ない社会学部でした。まるで先生のアドバイスが、予言のように思えたのも、無理からぬことでした……。

さて、前置き長すぎてすみません。

この私の人生のエポックメイキング、というか人生の曲がり角に登場した「虫食」、そしてそのエピソードを思い出してしまったのも、あまりにもすごい本が刊行されたからなのです。
20140718-1我が古巣、山と渓谷社からまさに本日発売!!

虫食(昆虫食)の本はここ数年結構出てますけど、こんなにお洒落で美しい、いわゆる〔レシピ本〕らしい仕上がりの本はないと思います。

著者の先生方は存じ上げませんが、担当された編集者のYさんはよく存じ上げてます。とにかくお洒落で凝った作りの本を上手に作られるんですが、その才能は昆虫食をテーマにしてさらに冴えわたっておられます。

構成もさすがです。

第一章では「見た目に優しい昆虫料理」と題打って、見た感じちょっとわからないかな?という料理を紹介。
第二章「素材を生かした昆虫料理」、
第三章「野趣を楽しむ昆虫料理」とだんだんと「昆虫色」が強まっていき、
第四章「スペシャル昆虫料理」では、お寿司やおせちなど、すっかり「お祝い料理にも堂々と昆虫使っちゃうもんね♪」とばかりに、しれっと進行させてしまいます。

す、っす、すごごご!!!!!

と、とにかくこんなすごいレシピ本、ほかにあったでしょうか、いや、ない!!!!

でも、でもね。

だからと言って、急に「虫食べたい!」と思うようになるかというとまたそれは別問題なのですけどね。しかし、この本は同業者としても目からうろこが落ちる素晴らしい本だと思いますし、物事というのはここまで極まることができるのだな、と人としての道までも何かこう、変えてくれちゃうような衝撃があるのです。

まさにそのタイトルに冠している『人生が変わる』、

…至言です。

高校時代の私にも、ぜひ見せてあげたい。しかし、(ほぼ)ベジタリアンだった私に見せても虫が食べられるようになったとは思えないんですけど、でも、なんでしょう。こういう物事へのかかわり方があるとあのころの私に教えてあげたい、とそんな風に思ってしまうのでした。

ぜひ、皆さん、手に取ってみてくださいね!!

『大日本魚類画集』の魚たち〔大野麥風展〕②魚への尊敬、そして「愛」


さて、ここで図録を参考に、大野麥風(おおのばくふう)さんについて少しふれておきましょう。

麥風さんは、1888年東京本郷生まれの江戸っ子。本名は要蔵さんと言います。最初、油彩画を学びますが、30歳頃から日本画を発表するようになり、このころから『麥風』という号を用いるようになりました。そして関東大震災をきっかけに、淡路島に引っ越します。この辺りから「魚の画家」麥風さんらしい、動きになっていきます。

「絵画に親しんでからは、山紫水明とはいえない平凡な田園、漁村、寒村を狙って描いていたが、魚類の色彩や姿態、性格に興味を持つようになって魚を多く描くようになり「魚の画家」と言われるようになったと記す。そうして魚族の二千種を片っ端から写生しようと志し、それがいつの間にか山積みにするほどとなったので、魚を芸術的にかつ鑑賞的、学術的に扱ったものを畢生の事業として残したいと考えた。それを日本伝統の優美な木版手摺りによる版画の粋に頼むことを決意し、和田三造や谷崎潤一郎、田中茂穂など各界の泰斗に援助を受けるようにした」(図録P13から引用)

「畢生の事業」として、「魚」を描く。
この決意がまさに核になって、この魚類画集は奇跡のように作り上げられていったのですね。

麥風さんは、近隣の水族館に足しげく通うだけでなく、潜水艇に乗って泳ぐ魚を写生したようです。そこで麥風さんが見たのは、魚の美しさ、「生きる真剣さ」でした。いいですね、「真剣さ」かあ。

そして、この画集が完成するのに何より忘れてはならないですが、彫師と摺師の存在でしょう。
なんと言っても、「原色木版二百度手摺」です。もう信じられないような多重摺版画ですもの。名人でなければ到底成し遂げられないでしょう。一点あたり、なんと版木は五十枚余りがつかわれたそうですよ。

彫師は大阪右衛門町在の名人・藤川象斎(ふじもとぞうさい)さん。摺師は、禰宜田万年(ねぎたまんねん)さんと光本丞甫(みつもとじょうほ)さん。
浮世絵の衰退で職を失っていた名人たちに、もう一度ふさわしいお仕事を用意できたことは、版元の社長である品川清臣さんも「胸が高鳴った」と言います。いい話ですね。

さて、そんな麥風さんたちの作品をもう少し見ていきましょう。例のごとく私が好きだと思ったものをご紹介しますと…
たこ

(大野麥風展図録119Pより引用)

タコです。
リアルな雰囲気のタコさんと、後方にリアルじゃないタコさんが同じ画面に収まっている、この妙!
たこめちゃくちゃかわいい!このタコ!
シューってなってますよ。
たまりません。これからタコ描くときにはこんな風に描こうっと。

それから、彼の描く魚を見てますと、なんか顔が優しい気がするんですよね。
よく見たら笑い顔っていうか、微笑んでるみたいな魚も結構多くて…
ナマズ

こちらのナマズさんも、なんか楽しそう。ウキウキしてるような感じがします。
太刀魚

こちらは太刀魚です。歯がとがっていて怖そうですが、なんかご機嫌さんな感じしませんか?

なんかもう、麥風さんの、魚に対する愛情があふれ出ちゃってるんですよね。魚の美しさに対する感動と…。

このほかの版画も素晴らしいものばかりでした。魚に対する愛、版画に対する愛。そんなものが結集したのがこの画集なんだなあと、強く感じました。

ぜひ、東京駅ステーションギャラリーに行って、生の版画をご覧ください。図録は現代のもので四色摺りですから、二〇〇色摺りは再現不可能です。本物は一味もふた味も違いますよ!!

大野麥風展(~9/27) 東京ステーションギャラリー

http://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/now.html

 

『大日本魚類画集』の魚たち〔大野麥風展〕①日本の「博物画」の系譜


突然ですが、日本の博物画ってすごいかっこいいですよね。

東京国立博物館なんか行きますと、江戸時代の博物画を見ることができますが、ほんとに素晴らしい。・・・あ、でも博物画、というか本草学の図譜というべきですね。この場合。

江戸時代、日本中で「本草学」と呼ばれる学問が盛んにおこなわれました。
本草学というのは、もともとは中国で薬効のある動植物を研究する学問、医薬学みたいな感じで発展したものですね。日本にも奈良時代には伝わっていて、薬学の基本みたいになっていました。

16世紀末、中国の本草学の決定版『本草綱目(ほんぞうこうもく)』が上梓され(上海・1596)、間もなく日本にも輸入されました。それに触発されて日本でも本草学に本格的に取り組まれるようになり、その後、貝原益軒の『大和本草』、寺島良安『和漢三才図会』などが上梓され、独自の発展を遂げます。
#この『和漢三才図会』、今でいうと絵のついている百科事典みたいな感じです。薬効のある動植物だけでなく、星の名前や、食器の種類や酒の種類にいたるまで網羅されています。

江戸時代は、こんな感じで今でいうと「博物学」的なものが大流行したのですね。大名の間でも、自藩の魚介類、鳥類、植物などを図鑑としてまとめる作業が大流行。大名のやることですから、ものすごく丁寧な、密度の濃い絵を掲載した図譜が作られました。

っと、前置き長くなりましたが、今回はそんな日本の博物画のある種の到達点ともいえるんじゃないかという『大日本魚類画集』と、それに至るまでの日本の博物画の流れを改めて見直せる展覧会『大野麥風展』(東京ステーションギャラリー)のご紹介です!
大野麥風展もうチラシからして可愛いですよね。デザインがまた良し!!
チケットチケットもまた凝っていますね。こういう凝り方は、今回の趣旨ともとってもあっていると思います。もしこれを麥風さんが見たら喜んだんじゃないかな~。
「ありがとう、…でもこの口下から腹にかけての切り方はどうにかなりませんか」
なんていうんじゃないでしょうか?
すみません、100パーセント妄想ですけども。

図録もまたかわいいです。
図録この本体が薄い水色の透明プラスチックケースに入ってました。いいですねえ。いいですねえ。

さて、今回の展覧会は、前半では江戸時代(栗本丹洲)、明治・大正時代(平瀬與一郎)の博物画が展示されており、夭折した平成の天才博物画家・杉浦千里(1962年生まれ・享年39)の原画も展示されていました。

そして、いよいよ本題の麥風(ばくふう)さんの『大日本魚類画集』の登場です!
#ちなみにこの画集は、会員500名限定で1937年から1944年まで、6期に分けて、各期に12点、断続的に頒布されたものです。あれ?よく考えましたらこの期間って思い切り戦時中含んでますよ。ええええ??!

どわ~~~!すごすぎる!これが木製版画~~~!!!???
「原色木版二百度手刷り」ってのは、いったい???!!変態的にすごい多重刷りですよ。(ちなみに今の一般的な印刷は4枚の版で構成されています)
なんかもうすごすぎてよくわかりませんが、私が好きだなと思ったものを図録から引用してみますと。例えば、このナマズ。
なまずかわいいい!!!
なんかメルヘンな感じになっちゃってますけど(笑)。
江戸時代の鯰絵みたいな構図ですね。そして、水草の実がまるで宝石のように赤い。仏画のようにも見えます。
カツオこちらはカツオ。美しく張りのある体のラインと強い目が印象的です。そして構図がまたすごいですよね。フォーカスのかけ方というか…
麥風さん、カメラも持たせたら素敵な写真を撮ってくれそうな感じしますね。

(続く)

大野麥風展(~9/27) 東京ステーションギャラリー
http://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/now.html