「鳳凰の声を聴け」

仕事柄、ただひとり、ひたすらに机に向かうことが多いのですが、
何日間も閉じこもって仕事をしていると、世界がどんどん狭まってくるように思い、だんだん悲しい気持ちになってきます。

今日みたいないいお天気の休日にこもっていると特に…^^;

そんな時には、A老師の揮毫を拝見すると、気持ちが落ち着いてきます。
ちょっとカジュアルで恐縮ですが、一番目に入る机の正面にぺたりと貼らせていただいてるんですね。

以前大変お世話になっている先生にお供して、A老師をおたずねした際に、ご案内くださったNさんが、師の揮毫を印刷されたとのことで、わけてくださったものなんです。

A老師の柔らかで優しい物腰は、私のような門外漢でも一瞬にしてその大きさを感じ取れてしまうような方でした。全く詳しくないですが、禅僧の理想のお姿を見たような気がしたものです。

「聴鳳」

恥ずかしながら、正しい意味を分かっているわけではありません。
でも、この何とも言えない美しい文字を見ていると、世界が広がっていくような心地がするのです。

「鳳」とは、鳳凰の「鳳」ですが、「聴」とあるからには、「聴く」ということでしょう。「聴く」としたら〈鳳凰の声〉か、あるいは鳳凰の鳴き声から律を定めて造られたという竹の笛《鳳笛》のことでしょうか。

姿が見えなくても、声〔音〕は聴こえます。
たとえ、孤独でもその声は聴こえてくるはず。聴こえないのは、自分が聞きたくないからなのではないか、と。

「鳳凰の声を聴きなさい」
――見えているもの、自分でわかることだけがすべてではない。
もっともっと大きなものが世界にはある。
その豊かさを、大きさを感じなさい。

……と。

私にとっては、そんな意味に思えてくるんですね。

そうすると、なんだかちょっと安心するんです。

そんなわけでして、本日ももう少し仕事がんばります。
そして夕方は剣道のお稽古に行くぞ~!おーー!!!

 

世界に二つしかない「双羊尊」が揃い踏み!!~『動物礼讃』展@根津美術館

IMG_0104

今年の根津美術館のスタートは「動物礼讃」展。でした。なぜ過去形かと申しますと、先週で会期が終了してしまったからなのですね~^^;。

え~!行ってみたかったのに!という方はすみません。

お知らせするのがだいぶ遅くなってしまいまして…。

実は私事ですが、2月はものすごくドタバタなスケジュールだったのですが、どうしてもこの展覧会は行きたくて、かなり強引にスケジュールに入れこみました。

と申しますのもですね。

根津美術館のシンボルともいうべき「双羊尊」の、世界で唯一同じような「尊」である大英博物館所蔵の尊が、並べて展示される、と言う奇跡のような展覧会だったからなのです!!

実は、私、古代中国の青銅器大好きでして。

幸いなことに、日本は世界でも有数の中国古代青銅器コレクションがあります。奈良博の坂本コレクション、泉屋博古館の住友コレクションなど、数・質ともにものすごいクオリティだと思うのですけど、も。

私も、たいがいマニアックな趣味と言われるのですが、石造物にしても、仏像にしても、けっこう同好の士は多くいるもので、一緒に観に行ったり、語り合ったりできるのですけど、なぜかこの青銅器だけは、語り合える友に未だ出会えておりません。

なぜなんだ…

でも、いいんです。一人でも好きなものは好きなんです!

さて、そんな愚痴はさておきまして、中国古代の青銅器についてものすごくざっくりご説明しますと、殷の時代(紀元前17世紀ぐらい)から、祭祀や儀礼専用の器材として多く作られました。ちなみにこの「尊」というのは、今風に言えば、お酒を入れる壺のことです。

中国古代の青銅器の魅力は、(細かい理由は大きく省きましてざっくり申し上げますが)なんといってものそデザインだと思います。

蝙蝠、羊、フクロウ、といった実在の動物をデフォルメし神の如くになったものや、想像上の神獣である「饕餮(トウテツ)」を文様化したものなど、動物たちが色濃く登場します。

私個人としまして、青銅器づくりの神業的な技術力にも瞠目しますが、やはり何と言ってもこのおそろしくもかわいらしいデザインに魅了されてしまった、と思います。動物好きにはたまらん!と思うのですけども。

20150301-2

上の写真は、図録からの転載になりますが、ちょっとご覧ください。左側が、大英博物館所蔵で、右側が根津美術館所蔵のものです。

驚くほど、構成要素は似ています。しかし、何かが決定的に違うように思います。

20150301-1

文様の違い、足の間の飾りのあるなしなども違いますが、すごくわかりやすいのはこの顔の表情かもしれません。

大英博物館のほうがよりリアルな感じで、生きものに近い、根津美術館のほうはより洗練されて柔らかで、デフォルメが進んでいます。

いうなれば。

万葉集と古今和歌集、ほどの違いがある……。

いや、もっとわかりやすく言うと、土門拳さんと入江泰吉さんの写真程に違いがある……。

そんな感じ?がしますね(あれ、なんか遠ざかってる??。

どちらも好み次第とは思いますが、根津美術館の所蔵の右側のほうは、なんとなくなるほどな、と思います。お茶人は間違いなく右と左がありましたら、右を選ぶんじゃないかな。お茶人、というよりも日本人、といったほうがこの場合は正しいかもしれませんが。

さて、この二つ、ではどういう関係性にあったかというと、よくわからない、というのが研究者の答えのようです。

ただ、作られた場所はおおよそ同じ地域(おそらく湖南省)で、作られた時期もだいたい紀元前13世紀から11世紀ぐらい、ただし大英博物館所蔵のもののほうが、すこしだけ古いだろう、と考えられているとのことでした。

なんと言っても、今から3000年ほど昔の話ですから。そりゃ、よくわからないですよね。しょうがないしょうがない。

でも、本当にこれぞ、ロマンですね!まさに眼福でした。

根津美術館
http://www.nezu-muse.or.jp/

『大日本魚類画集』の魚たち〔大野麥風展〕②魚への尊敬、そして「愛」

さて、ここで図録を参考に、大野麥風(おおのばくふう)さんについて少しふれておきましょう。

麥風さんは、1888年東京本郷生まれの江戸っ子。本名は要蔵さんと言います。最初、油彩画を学びますが、30歳頃から日本画を発表するようになり、このころから『麥風』という号を用いるようになりました。そして関東大震災をきっかけに、淡路島に引っ越します。この辺りから「魚の画家」麥風さんらしい、動きになっていきます。

「絵画に親しんでからは、山紫水明とはいえない平凡な田園、漁村、寒村を狙って描いていたが、魚類の色彩や姿態、性格に興味を持つようになって魚を多く描くようになり「魚の画家」と言われるようになったと記す。そうして魚族の二千種を片っ端から写生しようと志し、それがいつの間にか山積みにするほどとなったので、魚を芸術的にかつ鑑賞的、学術的に扱ったものを畢生の事業として残したいと考えた。それを日本伝統の優美な木版手摺りによる版画の粋に頼むことを決意し、和田三造や谷崎潤一郎、田中茂穂など各界の泰斗に援助を受けるようにした」(図録P13から引用)

「畢生の事業」として、「魚」を描く。
この決意がまさに核になって、この魚類画集は奇跡のように作り上げられていったのですね。

麥風さんは、近隣の水族館に足しげく通うだけでなく、潜水艇に乗って泳ぐ魚を写生したようです。そこで麥風さんが見たのは、魚の美しさ、「生きる真剣さ」でした。いいですね、「真剣さ」かあ。

そして、この画集が完成するのに何より忘れてはならないですが、彫師と摺師の存在でしょう。
なんと言っても、「原色木版二百度手摺」です。もう信じられないような多重摺版画ですもの。名人でなければ到底成し遂げられないでしょう。一点あたり、なんと版木は五十枚余りがつかわれたそうですよ。

彫師は大阪右衛門町在の名人・藤川象斎(ふじもとぞうさい)さん。摺師は、禰宜田万年(ねぎたまんねん)さんと光本丞甫(みつもとじょうほ)さん。
浮世絵の衰退で職を失っていた名人たちに、もう一度ふさわしいお仕事を用意できたことは、版元の社長である品川清臣さんも「胸が高鳴った」と言います。いい話ですね。

さて、そんな麥風さんたちの作品をもう少し見ていきましょう。例のごとく私が好きだと思ったものをご紹介しますと…
たこ

(大野麥風展図録119Pより引用)

タコです。
リアルな雰囲気のタコさんと、後方にリアルじゃないタコさんが同じ画面に収まっている、この妙!
たこめちゃくちゃかわいい!このタコ!
シューってなってますよ。
たまりません。これからタコ描くときにはこんな風に描こうっと。

それから、彼の描く魚を見てますと、なんか顔が優しい気がするんですよね。
よく見たら笑い顔っていうか、微笑んでるみたいな魚も結構多くて…
ナマズ

こちらのナマズさんも、なんか楽しそう。ウキウキしてるような感じがします。
太刀魚

こちらは太刀魚です。歯がとがっていて怖そうですが、なんかご機嫌さんな感じしませんか?

なんかもう、麥風さんの、魚に対する愛情があふれ出ちゃってるんですよね。魚の美しさに対する感動と…。

このほかの版画も素晴らしいものばかりでした。魚に対する愛、版画に対する愛。そんなものが結集したのがこの画集なんだなあと、強く感じました。

ぜひ、東京駅ステーションギャラリーに行って、生の版画をご覧ください。図録は現代のもので四色摺りですから、二〇〇色摺りは再現不可能です。本物は一味もふた味も違いますよ!!

大野麥風展(~9/27) 東京ステーションギャラリー

http://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/now.html