京都、奈良、高野山へ――空海さんと密教を巡る旅!①神護寺

空海さんの足跡をたどる旅へ

先週、約一週間かけて関西地方を行脚してきました。
今回のテーマは「特に空海さん(弘法大師)の『密教』を巡る」。

少々回りくどい話になりますが、人生を振り返りますと、
「日本文化の根っこに触りたい」というのが、どうやら私自身の変わらぬテーマなのですが、その日本文化の大きな根っこのひとつに「密教」があります。
私は、その大きな根源である『密教』を、仏像を通していつも遠くから(物陰に隠れるように)見てきました。

仏像を拝観するのに必要な、ごく初歩的な情報だけは一応知っていますが、あまりそれ以上突っ込まないようにしていた、というのが本当のところです。
そのあまりに深遠な世界ゆえに、腰が引けまくってました。及び腰になっていたのです。

しかし、仕事で密教に関わることをするかもしれなくなって、そうも言っていられなくなりました。

そこで思い立ったのは、まずは初歩の初歩。
密教を日本に持ってこられた弘法大師・空海上人の足跡をたどることでした。
時間の都合上、唐から帰国して京都に入ってから以降の代表的な関係深いお寺さんだけしかいけませんけど、まず現場に立ってみるというのが、やっぱり大事。そう考えました。

京都・神護寺からスタート

そんなわけで、スタートは京都の北西部にある神護寺さん。
神護寺さんは、和気氏の氏寺として成立しましたが、空海さんが唐から帰ってきたもののしばらく洛中に入らず、住まいしたお寺です。

こちらには、仏像ファンにとっても垂涎のお像がたくさんいらっしゃいますから、これまでも何度ともなく訪れています。

でも、今回は心の設定を「仏像拝観」から「空海さんの密教」に変更して、改めての拝観。面白いもので、そうなってくると見えてくる風景も何だか新鮮。目が行く場所もだいぶ違ってくるものです。

正直言って、この神護寺さんを拝観するだけでも、自分なりの小さな発見や気づきがたくさんありました。これこそまさに、現場にいってこそ感じる気づき。

実は、先週は本当にお天気が悪くて、神護寺に行く途中も曇天・時々雨。気温も低くて残念な感じだったんですが…

なんと、金堂(本堂)の前に進んだら、いきなり晴れました!!

能天気で楽天家の私は、「これはきっと歓迎してもらえてるってことだ!」といきなり気分アップ↑。

何しろ、この金堂の中には(そもそも)大好きな薬師如来像がいらっしゃるし、ね。好きな相手に受け入れたもらえたような、そんな気持ちになってたちまち幸せになり、「この旅は来てよかったってことなんだ!」とほくほく。

これは、企画成功もお祈りして、カワラケ投げるべし!ということで、お馴染みカワラケ投げ。目いっぱい厄除けします!

境内のいちばん奥の地蔵院まえから、錦雲峡と呼ばれる峡谷にこのカワラケを投げますよ。私は、なかなか上手に遠くまで飛ばせたので、茶屋の女将さんに褒めてもらえました。ほくほく。

そのあと、やっぱりせっかく来たからには…と、西明寺、高山寺と巡って、ホテルに戻りましたが、 やっぱり行ってみてよかった。

というのも、この風景。

金堂の後方の山上に、神護寺中興の祖でもある文覚上人のお墓があり、そこから見えるのは、京の街全体です。

なるほど。
この立地、大事ですよね。

山深いところになぜ?と思ってしまうのは、現代人の感覚かもしれません。

この場所からは、京都がよく見えますし、山をいくつか越えれば若狭の国、良港に恵まれた国際都市・小浜に出られます。
それに、素人目ではありますが、池の水の色を見ても土壌に石灰が多く含まれているように見受けられましたし、多くは赤土で鉄分も多そうな感じでした。
鉱物資源にも恵まれてる山系なのかもしれません。

こうしたことを、肌で感じられるのが、現場に立つことの意味でしょう。理屈じゃなくて染み入ってくるものがあります。

それにしても幸先のいいスタートでした。

(むとう)

仏像ブームを牽引した仏像ガールさんの処女作、約10年の時を越えて、再誕!『仏像の本<手のひら版>』西山厚監修・廣瀬郁実著(山と溪谷社)

2008年。「仏像ブーム」のなかで

フリーになる前に勤めていた会社で作った最も思い入れのある本に、『感じる・調べる・もっと近づく 仏像の本』という本があります。

物心ついて以来ずっと仏像ファンだった私は、どうにか仏像の本を編集したいとずっと考えていましたが、なかなか新しい切り口に出会えずにいました。
……しかし、ある時。

ネットで、『仏像ガール』さんが運営している素晴らしいサイトに出会い、その存在を知りました。彼女は、「仏像は、まず感じることが大切」と言い、シンプルな言葉で仏像の素晴らしさをより多くの人に知ってもらおうと活動していたのです。
私は珍しく即座にメールを送りました。ぜひお会いしたい、と。

そして、仏像ガールさんは、私の(あつ苦しい)思いを、あたたかく受けとめてくださいました。そうして出来上がったのが『感じる・調べる・もっと近づく 仏像の本』だったのです。

2007年から2008年というのは、「仏像ブーム」にわいた年でした。
そんな時代に呼ばれて登場したのが「仏像ガール」さんという様相で、まさにあのブームをけん引されていたと思います。

おかげさまで仏像ガールさんの大活躍により、本は大ヒット。私も、大好きな仏像の本を編集することができ、なおかつたくさんの方に手に取っていただけるという、この上ない幸福感に浸りました。

やせ我慢、そして独り立ちの時を越えて

そして月日が経ち。

私は会社を辞め、フリーランスで仕事をしていますが、古巣のお仕事はこれまでしてきませんでした。
一番の理由は……「もし古巣のお仕事をやるなら、やめないほうがよかった、ということだ」と思っていたからです。
だから、私は苦しいけれどもやせ我慢をして、ほかの出版社のお仕事をさせていただけるように頑張りました。そして、大先輩Hさんのご紹介で、P社のN編集長との出会いをいただき、それをきっかけにどうにかお仕事をいただけるようになりました。

たいして力がないこともわかっていたので、「とにかく全力でやる」と決めました。
調べるならとことん調べる。確認するならとことん確認する。思いつくことは全部やって先生とご相談する…。
何より、「心を込める」ことだけは忘れないようにしよう、と思ったんです。
真心を込めたら、それは著者の先生にも、編集長にも、そして読者にも、きっとちゃんと伝わるはずだ。私はそう信じていました。楽天家なのかもしれませんん。

でも、結果それがよかった。

もちろん最初は失敗ばかりでしたが、真心をしっかりと受け止めてくださる編集長、著者の先生に、ちゃんと出会えました。本当に私はラッキーだったと思います。

10年前の自分と出会うような時

そんな中、私にとって恩人でもある元上司のK編集長から、「仏像の本を作り直したい、ついてはムトウにお願いしたい」という、嬉しい連絡をいただきました。

K編集長は、長らく書籍編集の現場から離れて、八面六臂の活躍をされていましたが、書籍に戻ってきた、というではありませんか。
そもそも、この本もKさんの後押しがあって作ることができた一冊です。
やせ我慢も何も、「ぜひやらせてください!」という返事以外考えられませんでした。

そして、Kさんは、この本をつくった時のメンバー全員に声をかけてくださいました。

仏像ガールこと廣瀬郁実さん、監修者の西山厚先生はもちろんのこと、カバーデザインとイラストを担当してくださったかしわらあきおさんも。
まさにあの時のまま、「仏像の本」チームが再結成されたのです!!

そして、嬉々として再編集作業に入ったのですが…

なんというか、もう。

あの時の自分が、そこにいるって感じなんですよね。
「ああ、ここで時間切れ。力尽きたな」
「なんでこんな不思議なことした?私w」
そんな感じです。

仏像ガールさんや、Kさんとのやり取りも、時の流れをほとんど感じない。10年前の自分に戻ったような、いや、今の自分と昔の自分が重なって存在しているような不思議な感覚でした。

でも、あの頃の自分よりは、だいぶマシになったなあ。
そんなふうに思えたことは、自己満足ですが、ちょっと嬉しかった。
こんなことは、なかなかない経験だったように思います。そういう意味でも、本当に貴重な時間でした。

「仏像と出会う」ことをサポートしたい、という願い

そうして、いよいよ発売日がやってまいりました!

Amazonさんでは、明日(3/5)発売。
リアル書店さんでも今週中には並び始めると思います。

前作よりもだいぶ小さく、持ち歩きやすいようにと、ハンディなサイズになりました。
もちろん、中身の濃度はそのままですよ!
「仏教用語がわからなくても、調べやすいように」と、工夫した構成は変わりません。

郁実さんの優しく語り掛ける言葉、かしわらさんのポップでかわいいイラスト。そしてご紹介する仏像は、郁実さんが大好きなあったかくて素晴らしい仏像ばかりです。一冊持っていれば、お寺巡りも、きっともっともっと楽しくなると思います!

本書は、「超入門書」です。

「まず、知識より何より、『仏像と出会う』という体験をしてほしい」

郁実さんも、監修の西山先生も、いつもそうおっしゃいます。
その体験さえあれば、心も体も動くでしょう。もっと知りたかったら、本を探すでしょうし、もっと会いたかったら何度も足を運んでしまうでしょう。

そんな体験を、読者の方一人一人にしていただけたら、本書に込められたお二方の、そして不肖ムトウの願いは、成就するのです。

今回も不首尾はあるかもしれませんが(すみません;;)、とにかく全力で真心を込めました。ぜひ、お手に取ってみてくださいね!

また、最後になりますが、今回もたくさんのお寺、博物館の皆様に大変お世話になりました。お電話して、皆様の優しいお言葉に何度となく癒されました。本当にありがとうございました。

そして、廣瀬郁実さん、監修者の西山厚先生、デザイン・イラストのかしわらあきおさん、そして、K編集長。改めて御礼申し上げます。ぜひまた、お仕事ご一緒できたらと思っております!

(むとう)