命の気高さ――保護された犬たちの美しいポートレート集『SHELTER dogs』/トレア・スコット著(山と溪谷社)

昨日、入魂の一冊が無事に予定通り責了できたので、今日はお仕事は休んで部屋の掃除。本棚を整理していましたら、久しぶりにこの本が目にとまりました。

20140816サラリーマン時代に担当した写真集『SHELTER dogs』です。思い出深い大好きな一冊!!

2009年発行なので、もう5年前になりますか~。
月日が経つのは本当に早いですね。

さて、この写真集は、アメリカのシェルター(保護施設)に収容された犬たちのポートレート集です。

著者のトレア・スコットさんはファッション誌出身の写真家。

動物が大好きで、たまたまシェルターを訪れて、多くのシェルタードッグたちと出会います。犬を引き取るだけではなく、ネットや記録に載せるための写真撮影もうけおうようになり、里親に出会って自由になる幸運な子たちだけではなく、次々と安楽死させられてしまう現実を前に、「イヌたちの本当の姿を映すポートレート集を撮ろうと決めた」(P90より引用)といいます。

彼女の言う「本当の姿」とは、哀れな、絶望している姿ではなく、それぞれの犬が本来持っている個性のことで、もっと言えば「魂の輝き」「存在の確かさ」のこと。

「私にとって、これ以上シンプルで本当のポートレート集はない。やることはほとんどない。なぜなら、私の被写体はすでに美しく、生きる力に溢れ、アップ写真がとれる準備ができているのだから」(P90)

実際のところ、彼女の言う通りの素晴らしい写真がずらりと並びます。
気高く美しいイヌが56匹。

もともとこの企画は、愛すべきボス・Kさんの企画で、引き継がせていただいて一緒に作った一冊なのですが、初めてこの写真集(すでにアメリカで出版されたもの)をKさんから見せていただいた時、大袈裟な表現でなく、瞬きをするのも思わず忘れて見入ってしまったことを覚えています。

写真集というのは、商売として考えると大変困難な道なのですが、しかし、これは出さなくてはいけない本だ、と思いました。Kさんもそういう思いで企画を通されたと思います。

とにかく写真が素晴らしい。

この素晴らしさをより魅力的にすべく、日本の印刷技術のお家芸、とでもいうべき素晴らしい表現力で、もっといいものにもっていこう、とKさんと相談。

取り寄せたデータは、印刷された状態から想像していた通り、かなり青い方向に寄っていたし、ものによって方向性にばらつきがあったので、スコット氏の代理者に確認してより温かい色味、美しい毛並みを表現できるように調整させていただくようにしました。

私たちがもっとも気にしたのは、スコット氏のことばにある「憐れみを誘うような」存在なのではなく、見た人が「虐待された生きものたちに美しい魂が宿っていることに気付く」写真である、という点。

寂しそうな、悲しそうな、そういう写真ではないということ、それを表現したいと考えたのですね。

そこで、Kさんだけでなく、大先輩で師匠と仰ぐEさんにみていただきながら、作り上げていきました。

今改めてみてみると、自分で言うのもなんですけど、この写真集、やっぱいい!!

写真やテーマ性がいいのはもういうまでもありませんが、写真集表現としての状態もかなりいい!!
白表現、毛の質感、温かく気高い感じがよく出てます。また黒部分もいい。奥行きのあるいい黒。いうなれば温かい黒です。

KさんとEさんという、偉大な先輩がいっしょにやってくださったからこそ出来たことではありますが、この本にかかわった自分を褒めてあげたくなりましたよ。

最後に、印刷立ち合いをした時のこと。一緒に来てくださったEさんが、ニコッと微笑んで、

「むとうは本当にいい経験をした。こういう写真集をつくれるというのは幸運なことだよ。いつかこの写真集を作ったことを誇りに思うと思うよ」

そう言っておられたのを思い出します。

本当に、おっしゃる通りです。

何度見ても、感動できる写真集にかかわれた私は幸運者だなあ。そしてお仕事振ってくださった元ボスKさん、師匠Eさんに改めて心からの感謝申し上げたいと思います。

本書は、日本の現状もお伝えしたいと思い、短くではありますが、日本の保護施設がどうなっているか、保護された犬や猫はどういうシステムにのせられてしまうのか、そういうことも取材して補足しています。

ぜひ、お手に取ってみてください!

(むとう)