講演「運慶のまなざし」山本勉先生を聴く①

 

小学館さん90周年記念事業『日本の美術』シリーズ記念講演
先週末、小学館さん主催の講演会、「運慶のまなざし」by山本勉先生を聴きに行ってきました。20140130-1

もう説明するまでもないかもしれませんが、山本勉先生と言えば、日本仏教彫刻史の第一人者。おそらく今最も仏像についての著作をものされてますし、昨年は、平凡社さんから『仏像~日本仏像史講義~』も出されてますね。一般向け、仏像研究ともに影響力満点な大きなタイトルを立て続けに上梓されています。

今回の講演会は、小学館創業90周年記念企画として刊行されている『日本美術全集』の『第七巻 運慶・快慶と中世寺院』刊行記念として開催されたものです。
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太っ腹なことに、記念公園ということで参加費は無料!場所は丸の内丸ビルの豪華なホールですよ。さらにメモパッドとボールペンもお土産にいただいちゃって、なんだかびっくり。

すごいですねえ。小学館さん!!

さて、この美術全集、これまでに7回配本がありまして、それらの一部がホールに展示されてました。チラ見しましたけど、まあ豪華な作り!!

小学館さんと言えば『原色日本の美術』シリーズという、大変有名な美術全集を出されてますが、なんとそれから46年が経つんだそうですよ。

今も、『原色日本の美術』は図書館には必ずありますし、私もたまに参照させていただく素晴らしい図鑑です。そう言う意味では、こういった図鑑的美術全集は、小学館さんのお家芸ともいえるものでしょう。それを90周年記念事業にされた、というのは、なるほど、と思います。
20140130-4このシリーズの特徴と言ったら、このパンフレットの絵の並びを見ていただければ一目瞭然でしょう。
黒田清輝さんの〔湖畔〕の横に、つげ義春さん〔ねじ式〕の冒頭原画ですよ!!そしてその横には村上隆さんの〔五百羅漢図〕が来て、写楽…と続きます。
こういう視界で日本美術をとらえていく、というわけです。革新的で面白いですよね!

運慶作の仏像って何体あるの??

さて、ちょっと前置きが長くなってしまいましたが、そんな革新的意気込みで制作されているシリーズの7巻目。それをご専門の「運慶」を中心に編集された山本先生のお話です。面白いに違ない、と思ってましたが、案の定めちゃくちゃ面白かったですよ!

「運慶作、という仏像は、意外に少ない…」

仏像ファンの間ではよくそんな風に言われますが、先生のお話によりますと、もはや「少ない」とは言えなくなってきました。先生のお話では近年の研究成果により、次のような「認定レベル」が考えられているとのこと。

1.名前の記されている作品

2.名前は記されていないが同時代の史料に運慶作品として記述され、明らかに該当する作品

3.後世の史料に運慶作であると記されていて作風も矛盾しない作品(→伝運慶、と表記)

4.作風・構造技法や、伝来状況に予感する現代の美術史研究により運慶作と考えられるもの

1.2は、疑いようがないもの、と言っていいでしょう。確定された作品として、7件(作品数としては18)とされてますが、今回、先生はここに浄瑠璃寺旧蔵十二神将像を加えたい、とおっしゃられてました。つまり8件(像数34)。
#この十二神将像は、浄瑠璃寺にはなく、静嘉堂文庫とトーハクで分蔵されてるそうです。

こちらの十二神将は、明治時代の調査で、胎内に運慶の銘文があった、という新聞記事が発見されたそうで、同時代の史料にも運慶は作ったとあるため、ほぼ間違いないだろうとのことでした。

その確定されているものに3.4のものを加えますと、現在先生としては14件、像数47と考えられているとのことでした。

けっこう多いですよね??
けっこうっていうかかなり多いですよね!?

12.3世紀に生きた人の作品がここまで確定されてるって、そもそもすごいですよ。世界的に見てもまれなんじゃないでしょうか。何度も言いますが12.3世紀ですよ?!

世界美術史からの運慶 という視点
さて、この認定レベルで4にあたる例として先生が挙げられていたのが、有名な「東大寺俊乗上人(重源上人)像」(国宝)でした。こちらです。
20140130-2こういうお像の絵を乗せるのは大変難しいのですが、こちらは先日開催されて展覧会の図録表1、ということで許していただきましょう。

このお像は、日本というか世界を見ても屈指の傑作と言っていいであろう肖像彫刻です。長らく運慶の兄弟弟子である快慶作と言われてきましたが、先生はこれを運慶作である、と言い切っておられました。

いや、でもなんかわかります。

以前から、快慶作と伺うたびに、なんか違和感があったんですよね。快慶さんも素晴らしい仏師ですけど、方向性が違いますもん。私は素人ですから的確に表現できませんが、シロウトゆえに、直観力はかなり強いと思います(野生の勘みたいなやつです)。

先生がこちらを運慶作である、と考えた理由は、研究者としてさまざま述べられてましたが、「直観的な」こととして、ピカソの彫刻「雌山羊」と比較されていたのが印象的でした。
この雌山羊の彫刻と共通するような、そぎ落とされた線、フォルム、そういったものをピカソ以外には作れないように、この重源上人像も運慶以外には作れないんじゃないか、とそのようなことをおっしゃられていました。

私は、そういう直観はとても大切な感覚じゃないかと、日ごろから思っているので、大きくうなずいてしまいました。
さすが山本先生だなあ、とため息をつくワタクシなのでした。

(続く)