「疾風に折れぬ花あり」(中村彰彦著)第17回「蚕とともに」掲載!


さて、この二月号で17回目を数えます本連載。ご紹介しそびれてしまった(^^;)15・16回と一緒にご紹介させていただきます。

20150127

信玄の末娘・松姫さんは、武田家滅亡後は武蔵国は八王子にて出家し、信松尼と名乗っておりますが、いよいよ自立の道を確かなものにするであろう事業「養蚕」をスタートさせます。

松姫さんこと信松尼さんは、当時でも血筋も抜群に良く、お金持ちだった家に生まれ何不自由なく育ってきたひとです。
しかし20歳をすぎていきなり一族が根絶やしになってしまった。
自身の命の心配もあるほどの状況なのに、さらに3歳・4歳(今風に言えば2・3歳)の姪っ子たちを3人も形見として預かってます。変則的ではありますが、今風に言ったらシングルマザーですよね。

もちろん、名門のお姫(ひい)様たちですから、乳母やおつきの人もたくさん一緒についてきてます。そういう意味では、今風のシングルマザーとはちょっと違いますが、逆に、それだけ多くのひとたちがいるということは、経済的に支える責任があるわけで、その手立てを考えなくてはならないのですから、かえって大変です。

なので、これまでは信松尼さんのもっとも大きな心配事は、三人の養い子を立派に育て上げること、そしてついてきてくれている家臣の皆さんを飢えさせないということだったのですね。

そこで思いついたのが「養蚕」でした。つまり『絹』ですね。当時『絹』は大変高価なものでした。

実際、今回先生がお書きになるためにと、私も資料を集めたり読み込んだりしてみたのですが驚きました。高価なのもなるほど、というほど手間がかかるんですね。

一つの繭からとれる生糸はごくわずか。布一反作るのに生糸が900グラム必要だとされているのですが、この900グラムの生糸を得るためには約2600粒の繭が必要なんだそうですよ。2600頭のお蚕さんが必要ってことですよ!?

それだけでもすごいと思いますが、この数字は品種改良された現代のもの。明治以前のお蚕さんは、繭の大きさが現在の半分しかなかったそうなので、単純計算すると5200頭ものお蚕さんが必要ということになります。

そりゃもう貴重ですよね!?

それだけ貴重なもの、そしてみんなが欲しがるもの、それは需要と供給の関係で高価になるのは当然なことです。

信松尼さんが暮らす、八王子のあたりは、もともと養蚕が盛んなお土地柄だったこともあり、信松尼さんの思いつきはごく的を得たものでした。

しかし、養蚕に詳しい人物にレクチャーを受けて、信松尼さんは、気づきます。養蚕で利益を得るだけの量を生産するには、広い場所と道具が不可欠であることを。

ここでまた資金不足、ということで立ち止まりかけたのですが、運がいいことに八王子代官所の代官頭・大久保十兵衛が援助を申し出ます。

十兵衛さんはもともと武田家に仕えていた人。自分が赴任した地に、元主家のお姫さまが出家して隠棲していることを知り、なんとしても身を立てられるように助けて行こうと、動いてくれるようになります。

今風に言えば、起業しようとした女性(信松尼さん)、アイデアはいいけど資金不足。そこに資金提供者が出現、起業にこぎつける…。そんなかんじでしょうか。

そして、今回は、実際に養蚕を行う様子が詳らかに描かれます。

ここまで丁寧に江戸時代の養蚕の様子を描き出す小説はほかにないんじゃないでしょうか。さすが中村先生です。
信松尼の不安やとまどいや、挑戦することへの喜びなども丁寧に描かれます。今の私たちがみても、すごく共感する内容になってます。どの時代でも、挑戦するってこういうことなんだなあ、と。

ぜひお手に取ってみてくださいね!

(むとう)